――かつて、船があった――
あー、あー、本日天気晴朗なれども波高し。 進路ようそろ、では出港 信天翁(アルバトロス)号。
積み込む荷物は横流し品に銃器爆薬飴玉お酒になんでもござれ、ただ阿片だけは勘弁な。
立ち寄る港は薄暗く、というより明るい陽の下には出られない。
なにしろ船員たちは船長以下人間失格の奇人の目白押し、脛に傷持つ奴が当たり前、頭がおかしい奴はこの船だと当たり前。
積み込む荷物も運ぶ船員もおかしけりゃ、泊まる先々もどこかが変だ。
海図にはない、有り得ない島に遭遇するし、海往かば往ったで幽霊船やら巨大怪魚やらに巡り会う。
こんな毎日、信天翁号の愉快な毎日、潮風に当たればちょっとくらいのおつむの病気なんか吹き飛ぶ素敵な暮らし、だからみんな乗り込んでくる―――なんでか脱走したがる奴もいるけれど。
そして前途に立ちこめるは文字通りの暗雲大波、天気最悪にして波大荒れ、しかれど船員たちの意気は絶好調。
どんな大暴風雨が吹き荒れようと、どんな三角波がおっ被さろうと、船の中のほうがもっと激しい。船員たちは嵐より狂っている。
あー、あー、信天翁号、どこから流れてなにを求めてどこへ往く、それは大いなる謎。
船長だってそのあたりの事、判っていない。
あー、あー、信天翁号、どこへ往く―――
―――なんだ、結局みんな、この船しか居場所がないんじゃあないかッ!?―――
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船長 クロ CV:金田まひる
- 嵐を呼ぶ船長という勇ましい触れ込みの、白子の痩せこけて目ばかりがぎょろぎょろ大きい小娘。
船長だと名乗りながら、普段はどうにもおつむが可哀相な状態にあり、全く船長らしいところがない。
ところが気圧が大幅に下がると、脳の回路がかちんと繋がって、神がかった知性と掌握能力を見せるようになる。
ところが船員達は皆、船長のスイッチが入るから嵐になるのだと真逆に信じており、彼女が感謝されることは一切無い。
「痛いのヤだよう。クロが嵐呼ぶんじゃないよう。ぶたないで蹴らないで、船から落とさないで」
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一等航海士の双子 シサム&キサラ CV:野月まひる
- 北海生まれの、一等航海士を二人でつとめる双子の姉妹。
二人で、というのは彼女たちが常に相手の身体の一部と触れ合っていないと頭がおかしくなるという奇病に取り付かれており、離れる事ができないから。
二人が一番落ち着く体勢は背中合わせに密着した状態で、この体勢の彼女たちは、高性能GPSシステムを内蔵したような方向感覚と位置感覚を備える。
船員たちの中でもまともなほうではあるが、密輸、かっぱらい、詐欺などの犯罪行為はいとわない。
「――どっちがシサムでキサラか当てて見せて? 当てたら一晩付き合うよ。外したら身ぐるみ剥ぐからね」
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乗客 彩久津 泪 (いろくづ るい) CV:水純なな歩
- 一体なにを血迷ったのか、わざわざ信天翁号を客船に選んで乗りこんできた女性。
主人公とは知己。
仕草、動きが淑やかで、常に優雅なる怠惰に漂う貴族的な女。船員たちとは明らかに異なる人種のはずなのに、主人公はこの女がどうしても怖くてたまらない。
それは彼女が男を破滅させる類の美女であるからであり、主人公も彼女と初対面時、身に覚えのない痴情のもつれに巻き込まれ、一面識もない男から刺し殺されかかった事がある。
趣味はセックスとカードゲーム。
「そうよ。その写真は、わたくしの夫『達』 のもの。今の人はええと……十三番目の夫です」
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水夫長
- 通称は 「龍 (ロン) の親爺」。
航海士に港の酒場から適当に水夫(主人公)をさらってくるよう指示したのが彼。
四十がらみの屈強な、顔から肩にかけて龍のある悪鬼の如き異相の男で、顔に相応しい荒くれ者だが、活字中毒で一日一冊は本を読まないとたちまち幼児退行を起こす。
「ところで貴様、なんでもいいから本を持っておらんか。一冊につき一時間休憩を増やしてやる」
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機関長 ロックフォール・王 (ろっくふぉーる・わん)
- 船の地獄のような機関室の一切を採りしきる機関長。
純黒の上下とアスコットタイ、髪型も隆といなせに決めて、丸い黒眼鏡の美男子で、機関室にほとんど常駐しているにもかかわらず、シャツが汚れた例しがない。
物腰、言動もインテリで、掌帆長とはよく対立している。
前向的健忘症にかかっており、近々に起こったことを覚えていられない。
「まあ座りなさい。今ウイスキイ入りの紅茶を淹れてあげよう。……ところで君はなんでここにいるのです?」
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殺し屋 智里 (ともさと)
- 主人公を追って、女客と共に船に乗りこんでいた殺し屋。
金田一耕助みたいな衣装の、日本人なのになぜか蒼い眸の優男だが、人には見えないモノが見えてしまっているせいで、喋る言葉が脈絡なく、かつ意味不明で、会話がろくに成り立たない。
機関長や宗右衛門とウマが合うらしく、よく三者でチェスや花札を打っている。
「お前ね。俺が言うのもアレなんだが、お前―――見事なまでのダメ人間だなあ」
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密航者 CV:高槻つばさ
- 信天翁号の常連密航者。
毎回絶対この船だけには乗りこまないと密航者のくせして船を選り好みしつつも、何故か信天翁号に潜りこむ事になり、その都度船員たちに締められては港に叩き帰されたり、簀巻きにされて捨てられたりしているのだが、気がつくとまた乗りこんでしまって彼女、船員双方ともにうんざりする羽目になる。
彼女がそこまで密航に執着するのは、一つところに七日以上留まると精神異常を引き起こすという持病を有しているため、常に移動状態にある船舶が理想の居場所となるから。
なお正規乗船しないのは、そんなお金などこれっぽっちも持たないから。
「ええと……なんでまたこの船なんだろう。今度こそはちゃんとしたお船を選んだつもりだったんだけど」
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下級水夫たち CV:草柳順子
- 船のあちこちで使役されたり、船底や機関室で石炭にまみれ蠢いたりしているセーラー襟に半ズボンの水夫たち。
全員同じ顔で、いつの間にか増えたり減ったりしている。
普段は前髪で顔の半ばが隠れているが、その貌立ちは大層可愛らしく女の子のよう。
ただし全員例外無しにちゃんと “ついて”いる。
貌立ちはみな同じだが、口調や個性に差違はある。
「僕らは今日も今日とて荷運び仕事。ちなみに餌はウジちゃんの湧いたハードタックルに薄いお塩のおつゆだけ」
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酒場のお姉さんたち CV:草柳順子
- 信天翁号が寄港する、津々浦々の港町の御茶屋や酒場にたむろしている御婦人たち。
船員たちと刹那的な一夜の恋愛を繰り広げる毎日を送っている (婉曲的表現)。
貌立ちがみな同じ。
「今日はおっぱい? あそこ? お口? それともこっちの片目の中で出しちゃう?」
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主人公 朔屋 直正 (さくや なおまさ)
- 航海士たちの色仕掛けに引っかかり、信天翁号に二等航海士として引きずりこまれる羽目になった、
他の船員に比べれば比較的常識人だが、実は躁鬱の起伏激しい困りもので、躁状態時は無敵の海の男となり (ただし全く根拠のない自信なので、結局滅茶苦茶弱い)、鬱状態時には重力にさえ耐えかねて行動不能となる、鬱陶しい芋虫男となる。
一言で言ってしまうと、助平で、臆病で、面倒くさがりで怠惰なダメ人間。
「あああ堪忍してぇっ、その銭まで巻き上げられたら、明日のお酒呑めなくなっちゃうううっ」
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